本研究は、特に武力紛争法を通じて、国際法にとっての「人権」観念の基底的性格を考察している。昨年度は、既に報告書で記したように、2つの作品をまとめた。一つは、「内戦化する世界」(『社会科学研究』第54巻第5号)であり、これは武力紛争法展開の歴史的デッサンであり、この種の大掴みの作業が1年目の作業として必要だと思われた。もう一つは、「国際人権の基礎」(『ジュリスト』No.1244)であり、これは本研究課題と強く関連し、武力紛争法に限定せずに、より一般的な文脈の中で理論的枠組みを暫定的に提起したものだった。今年度は、前者の内容を歴史的にではなく、後者のような理論的整理の中で表現しようとした。具体的には、「人権・人道の理念と構造転換論-人道法は人権法の特別法か」を準備した。これは、「構造転換論」で知られる石本泰雄先生の傘寿記念論文集に収められるが、国際法の構造転換論の文脈の中で、人権の理念を考察できたのは、本研究によって重要な意味をもっていた。というのは、これによって、類似する理念である「人道」との比較を通じて、「人権」理念の特性を明らかにできたからである。その特徴を幾つか挙げるなら、正義との強い連関、権利としての強行的な性格、法的空間を作り出していく基盤となっていることなどである。次年度の計画は、対象を武力紛争に絞った今年度の作業を再び国際法一般へと拡大して一般的理論枠組みを洗練させること、および、1、2年目の成果を英語論文として公表することである。
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