本年度は、まず、WTOの新ラウンドで交渉が始まったダンピング防止税協定の改定問題を分析した。この交渉では、当初は、協定の制度趣旨という根本問題には触れずに各国が妥協できる範囲での技術的改定がなされるにとどまると予想されていたが、米国が競争条件平準化説に基づくダンピング防止税協定の原理論を展開したため、本研究が焦点を当てているダンピング防止税の機能論が議論の対象となった。本年度は、これらの動きを分析し、わが国政府や企業の関係者と議論を重ねたが、その成果を学術研究として公表するまでには至らなかった。 また、ダンピング防止税と並ぶ貿易救済制度の一つであるセーフガードについては、近年、WTOのパネル・上級委員会報告で損害・因果関係の認定が大きな争点となっていることを踏まえ、これらの報告の分析を行なった。その結果、複雑な事実関係である損害・因果関係に関しては、立証方法の技術的限界、紛争当事国の立証責任、パネル・上級委員会の審査基準等の観点から、再検討が必要であることがわかった。その成果は現在公表準備中である。 さらに、相殺関税については、サンセットレビューを中心としてWTO補助金・相殺措置協定を分析した。その結果、相殺関税に関してもその制度趣旨が明確ではないため、個別規定の解釈に問題が生じることがわかった。これはダンピング防止税とも共通する問題であるが、その研究成果を学術研究として公表するまでには至らなかった。 来年度は、これらの研究を学術論文として公表することを予定している。
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