今年度の前半(2002年4月1日から8月31日まで)は、科研費とは別の資金を得て、フランスのポワティエ大学にて上記研究課題について在外研究をしていた。また、年度末の2003年3月には、ボワティエ大学で開かれた上記研究課題に関する研究集会(28日開催)で日本法の状況を報告するため、再び渡仏する機会もあった。そこで今年度は、地の利を生かすため、日仏比較研究のうちフランス法の部分、特にその最新の動きに重点を置いて研究を進めた。 これにより明らかになったことは以下の通りである。インターネットの普及に伴い、新聞・雑誌に掲載された記事や写真をウェブ上で利用する際に著作者の許諾が必要かどうかが、華々しく法廷で争われることとなった。そして、新聞・雑誌の全体は集合著作物(新聞社・雑誌社が原始的に権利を有する)となっても、それを構成する個々の著作物はそれぞれの著作者のものであり、ウェブ上での利用は再利用にあたるので許諾が必要であるという判例法理が定着した。また、一連の事件をきっかけに、主要な新聞社・雑誌社と著作者の主要な労働組合の間に、いくつもの重要な協定が締結されるに至った。さらに、1990年代末期より、インターネット時代への対応を急ぐ政府の主導により、著作者と投資者の権利をめぐる法制を、大幅に整備し直す動きがみられる。法制見直しの作業は、民間の著作者(私法関係)に関するものと公務員著作者(公法関係)に関するものとに大きく分かれる。両者とも、日本でいう審議会のような会議体での検討を終え、法案の起草を待つ段階に至っているが、前者に関しては、会議体において当事者(特に著作者団体や労働組合とメディアまたはコンテンツ企業の経営者)の対立が大きく、両論併記の結論しか得られていない。 以上の成果は、2003年度の早いうちに日本語で詳細に発表する予定である。この他、ポワティエ大学研究集会における報告も、同年度内にフランス語で発表する手配を進めている。2002年度内に発表した論文は上記研究課題とは直接関係のないものであるが、上記研究課題の研究を通じてフランス著作権法全般の知識を深めたことが、当該論文の執筆にも大いに役立った。
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