今年度は、前年度の研究成果をとりまとめ、発表することに力を入れた。また、年度末には再びポワティエに出張し、1日を費やして現地の研究者と対話し、標記研究テーマに関する最新報を得た。 支出項目を具体的にみると、前年度に比べて設備備品費の支出が多くなっているが、これは、研究機関を移って研究環境整備の必要に迫られたのと、前の機関では外国雑誌購読料が消耗品扱いであったところ、今度は設備備品費扱いとなっていることによる。 次頁に掲げる論文のうち1つめは、フランスにおける著作者の権利の原始的帰属がどうなっいるかについて、2003年7月の時点の法令および判例・学説を包括的に調査し、そこから日本法への示唆を導くものである。当該論文においては、フランスでは著作者とは実際に創作をした自然人のみをいうのが原則であり、この原則は破毀院によって堅持されているが、集合著作物という例外的制度の下で、創作活動に出資しそれを統括する非創作者が著作者と擬制されることが明らかになった。特に、商品デザインをめぐる企業対企業の侵害事件において、近時、集合著作物の枠組みに縛られず、原告企業に著作者の資格を推定する破毀院判例が蓄積していることも明らかになった。このような紛争局面に応じた柔軟な解決は、日本法にとっても参考になるところである。 2つめの論文は、上記1つめの論文を踏まえ、著作権法学会の2003年度秋季研究大会(12月13日)のシンポジウム「職務著作」にておこなった報告を、活字化したものである(最終校正済、例年5月頃出来予定)。ここでは、上記フランスの集合著作物制度と日本の著作権法15条1項とを比較した。その結果、両者の要件・効果が似ているのは、15条1項が立法される際に集合著作物制度が参考にされたためであり、各要件の解釈や他の著作権法規定との関係を詳細にみれば、15条1項のほうがはるかに広い射程を有することが明らかになった。
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