平成14年度の研究目的は、効果的な司法制度の設計のために、手続内不服申立のシステムである控訴および上告について上訴制限の観点から検討することである。具体的な研究対象は、2000年に大胆な控訴制限を実現したドイツの新民訴法の状況である。本年度は、新法施行にともなう実務の混乱をうかがわせる裁判例も公表され始めた時期でもあった。これらの最新の判例といっせいに改訂された体系書及び注釈書を収集して、新法の問題点を検討することができた。他方で、現在の司法改革の原動力となった政治的および政策的な背景を調査するために、ドイツ・ケルン大学手続法研究所をベースにして現地調査を実施した。法改正論議において当初の草案の修正を引き起こす決定的な批判を行ってきた研究グループへのインタビュー、並びに実際に新法の運用において難問に直面している実務家からの意見聴取をすることができた。 以上の研究の成果として、ドイツの新民訴法、特にその上訴制限に関する法改正は、理論的にもまた実務的にも満足のできるものではないという評価が支配的であることが明らかになった。具体的には、許可控訴の要件である「重大な意義」の概念が不確定なので、混乱をきたすこと、一般的な控訴受理の手続は控訴制限及び控訴裁判所にとっては何の効果もないこと、むしろ手続の遅延が見込まれること、他方で、控訴制限の代償として、審級内の不服申立手続が新設されたが、対象事件が限られることから特に意味のある改正とはいえないこと、しかし、憲法裁判所の負担を軽減する方法であることは評価できること、などがあげられる。 その他に、ドイツの民事司法改革に関連して、裁判手続における裁判官の裁量の限界、並びにヨーロッパ全土の動きとしてADRの強化の問題について生じている新動向も調査を始めることができた。
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