今年度に行った研究は、大別すると以下の二つの方向性に分けられる。第一は、株式会社制度、株主総会制度に対して歴史的・理論的観点からする研究である。とりわけ今年度は、アメリカにおける株式会社制度、株主総会制度の歴史的展開を中心的に研究した。素材としてはアシュトンの産業革命に関する研究やアダム=スミスの著作を基本に据えつつ、アメリカにおける当該制度の基礎となる17世紀から18世紀におけるイングランドの状況、および18世紀末のアメリカにおけるその継受に関する研究を行った。当該研究を通じて、16〜17世紀のイングランドにおいて国家目的から貿易会社・植民会社を中心に発展した株式会社の原型につき、その巨額な資金調達可能性等の「機能」に着目されてその利用形態が多方面に拡大していった実態(運河等の土木事業、銀行等の金融業を行う団体への利用)、そして以上の変化に伴い株式会社制度から政治性が希薄化していく過程が明らかになった。また以上の認識の結果として、団体の有する「機能」に着目してその利用形態が変容し、新たな団体理論が発展するという事情は、この現代においても同様に妥当するものであるということに気づかされ、今日の団体制度を分析する上でも重要な視点が獲得された。 第二は、株式会社制度、株主総会制度に対して、今日の実務的な運用を認識する方向性での研究である。今年度は、ドイツの法律実務家からヒアリング調査を行い、今日のドイツにおける株主総会制度の実際を確認した。そこでは、ドイツにおいては、銀行による事業会社支配を前提として株式会社制度が構築され、運用されている現実や、株主総会の機能に関しては、一部、積極的に活動する株主の組織があるものの、基本的には形骸化している状況が確認された。
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