今年度は、まずわが国の過去の裁判例の整理を行った。過去5年分の女性労働者に関連する問題を取り扱った裁判例をすべてピックアップし、項目を立て、分類した。 結論から言えば、「家族生活を営む権利」に似たものが主張された裁判例は見当たらなかった。ケンウッド事件(最三小判平12.1.28労判774号7頁、判時1705号162頁)帝国臓器事件(最二小判平11.9.17労民集47巻3号211頁)の小さい子どもを抱えた労働者に対する配転命令の違法性が争われた事例の最高裁判決がみられたが、この中ではそのような権利の存在には触れられておらず、かつ、労働者側の敗訴に終わっている。 しかし、配転に関する事例ではないが、ライフスタイルを選択するときに職場との間で軋轢が生じ、訴訟に発展した事例はある。今川木の実学園事件(大阪地裁堺支部判平14.3.13労判828号59頁)は、内縁の夫の子どもを妊娠した幼稚園教諭が、園長から暗に中絶を勧められたばかりか、退職勧奨をされた事例であり、園長の行為の違法性が認められている。男女の両方が同じように労働の時間を短縮あるいは休業をして育児にかかわるということは、いうなれば「新しいライフスタイルの選択」であるともいえよう。このような新たな動きがあることは、わたくしのこの研究にも寄与するものである。 他方、様々な研究機関・国の機関等が調査をした育児休業の実施状況に関する資料を多く収集した。特に男性の育児休業取得に関しての資料を重点的に収集した。いうまでもなく、わが国における男性の育児休業利用率は非常に低い。それでもゆっくりと増加していることは確認できた。 以上の結果を踏まえ、来年度にはさらに「家庭生活を営む権利」を論じる必要性を確認していきたいと考えている。
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