今年度は、主に次の三つの観点から研究を進めた。第一は、裁判例の検討である。これまでの研究を踏まえて、今年度の前半は、医療機関の自主規制に対する反トラスト訴訟判決の検討を行った。最近のカリフォルニア歯科医師会事件連邦最高裁判決に至るまでの判決の流れを検討し、同業者団体が行う反競争的活動に対する判断基準のあり方、医療情報と広告規制の特殊性に関する考慮のあり方などについて分析を進めた。第二は、関連研究の分析である。今年度は、私の問題関心に近い視角から反トラスト法制について研究を行うWilliam Sage教授(コロンビア大学ロースクール)とPeter Hammer助教授(ミシガン大学ロースクール)の研究論文に接することができた。そこで、今年度の後半は、彼らの研究をてがかりとしながら、(1)反トラスト法における品質競争の性質と医療制度への含意、(2)品質に関わる情報と消費者・保険者の選択、(3)品質競争と技術革新、(4)マネジドケアとの関連、などの基本的論点について関連する裁判例や法制度の動向を検討した。第三は、診療報酬制度の検討である。診療報酬の統制による価格規制が医療市場に与える影響を検討することは、わが国における競争政策と医療法制との交錯の問題を検討する上で重要な論点であると考えた。そこで、わが国の診療報酬制度に関する検討を行い、論文など二本を公表した。上記の三点については研究を一定程度進めることができたが、その反面、当初予定していた法人組織のあり方と反トラスト法制とのかかわりについての検討は十分に行うことができなかった。この点に関しては次年度の課題としたい。
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