本年度の前半は、最近のアメリカの反トラスト法裁判例と連邦取引委員会・司法省の医療分野での活動に関して検討をすすめた。2003年に医療分野における競争法をテーマに連邦取引委員会の公聴会が開催されており、これに関する資料が多数公開されているため、検討にあたっては、これらを参照しつつ研究をすすめた。後半は、1990年代にアメリカで大きく展開された保険者と各種医療機関の統合化の過程で生じた競争政策上の諸問題について裁判例および行政実務を検討した。このほか、医療計画や同僚審査に関する連邦法及び州法の内容が反トラスト法の方針に抵触する場合に、両者を調整するためにこれまでに提案された様々な理論(明示及び黙示の適用除外、州行為免責理論)に関して検討を進めた。以上の検討にあたっては、反トラスト法訴訟において、裁判所が医療サービス市場における「市場の失敗」をどのように認識してきたのかを分析の視点とした。 とりわけ後半の検討を通じて、アメリカにおける最近の医療の統合化に関して以下の類型化を行い、競争政策上の論点を明らかにした。(1)病院組織と医師組織の排他的な契約により、他の医師(集団)が排除されるケース。(2)病院組織と医師組織の排他的な契約により、他の病院が排除されるケース。(3)保険会社と医療機関との契約により、他の保険者が排除されるケース。(4)保険会社と医療機関との契約により、他の医療機関が排除されるケース。この問題の検討にあたっては、医療以外の規制分野における裁判例との関連性にも配慮しながら作業を進めた。
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