これまでの研究をもとに、アメリカの医療分野における反トラスト法の展開過程を整理するならば、次のようなものとなる。第1期(1975年〜1980年代はじめ)は、医療分野での反トラスト法の適用が開始された時期である。従来、裁判所は、医療分野での反トラスト法の適用に消極的であったが、1975年のGoldberg判決を契機にこうした方針を変更し、医師会など同業者団体による競争制限的行為が問題とされるようになった。第2期(1980年代)には、政府による規制(医療計画、病床規制)と反トラスト法との関係が問題とされた。連邦最高裁判所は、医療計画に従った医療機関に対して、非常に限定された範囲で反トラスト法の適用を控えるという方向性を示した。また、連邦議会は制定法を通じて、病院内のピア・レビューと反トラスト法との調整を図った。第3期(1990年代〜)においては、マネジドケアに対抗して医療機関などが形成するネットワーク組織への反トラスト法の適用が問題となっている。司法省と連邦取引委員会は、3度にわたり、医療領域での反トラスト法の適用方針を示したガイドラインを公表している。当初、ガイドラインは、経済的な効率性の向上が期待できる統合事業のみを容認するという姿勢を示していたが、最新のガイドラインでは、診療ガイドラインの実施など診療面での統合事業を実施するネットワーク組織に対しても反トラスト法上容認される場合のあることが示されるようになった。本研究で検討した医療分野における反トラスト法の展開は、医療分野における市場と組織(自主規制、政府による規制)の役割分担を検討する上で重要な手がかりを提供するものである。
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