本研究は、グローバリゼーションと欧州統合という二つの外的環境の変化が、90年代以降のイギリスの政治システムにもたらした変容を、文献資料の分析と関係者へのインタビューをもとに検討するものである。具体的には、サッチャー後の二政権(メージャー保守党政権、ブレア労働党政権)について、複数政策分野における政策過程とそれを巡る政治過程を比較分析することが中心である。本年度は、当該時期のシステム変容の実態把握、ならびに研究を先行させてきた二つの政策分野については、そのメカニズムの分析を行った。後者の詳細は下記の通りである。 (国内社会との関係について) 中央政府から地方への権限委譲に伴う地域制度の拡充と地方自治体の権限拡大を検討し、ブレア政権下で地方議会が設立されたスコットランド、ウェールズ、北アイルランドのみならず、イングランドでも90年代を通じ、経済開発と民主制拡充の両観点から、サブナショナルなレベルを重視する統治体制の拡充が進んだこと、またその結果、イギリスでもいわゆる「多層性統治」が拡大し、大陸ヨーロッパ諸国と制度的な収斂が進んだことを明らかにした。 (国際社会との関係について) イギリス政府による欧州関係の運営体制を検討し、ブレア政権において、欧州政策が一般の外交政策から制度的に独立した単独の政策分野として確立されたこと、そしてその新しい政策分野における多様な省庁の関与と内閣府の権限拡大を明らかにした。また同分野における政治過程の分析を通じ、「ヨーロッパ問題」をめぐり、90年代、イギリスの政治的リーダーシップに変化がもたらされ、政党制に変容がもたらされつつあることを明らかにした。 また、今年度、これらの分析とあわせ、次年度以降の分析課題である政策主体の多様化(地方統治における非営利民間団体による活動の拡大、ならびにイギリスの外交政策における経済・文化関係省庁の関与)について、基礎資料の収集を行った。
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