本年度の研究は、外交史料館を中心とした国内資料の収集に専念した。その背景には、昨年発見した一次資料がある。従来の理解とは異なり、日本政府が米国と遜色のない外交暗号解読能力を保持していたことが外交電文より明らかとなったのである。調査の結果、日本政府は1920年代後半から広範囲に渡って米国の外交電信を傍受し、解読していた事実が判明した。従って、本研究が考察するフーバー政権期の日米関係に関しても、この新しい事実を踏まえて、政策決定への影響を再検証する必要が生じた。つまり、本来は政治外交史のアプローチが主であった研究に、新たに情報史(intelligence history)という側面が加わったのである。さらに、米国も1931年に諜報機関に大幅な組織替えがあり(Black Chamberの閉鎖、及びMI-8の発足)、新組織がどこまで日本の外交暗号を解読していたかについては不明な部分が多い。情報という要素を本研究におけるもう一つの軸にすることにより、課題である1930年の日米関係の考察において、より立体的かつ整合性のもつ分析・検証を行えると考える。 上述した日本の新資料をもとに、本年度での実績として、同志社大学、京都大学、およびハーバード大学でそれぞれ研究報告を行った。来年度では、アメリカ外交史学会(SHAFR)で報告を行うことがすでに決まっている。活字としての公表では、『外交フォーラム』の他、『朝日新聞』と『産経新聞』の文化欄に研究を紹介した。出版社との話も進み、来年には単著としての公表に関しても目処が立った。
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