本年度は大きく三つのテーマにつき調査研究を実施した。 まず、「NPM型統治像」については、関連文献の渉猟や識者との議論を通じて、その特徴として以下を抽出するにいたった。第一に、NPMの文脈においてまずもって重視される価値とは、"結果"(及び、それに不可欠の起業精神や革新的行動等)である。第二に、この価値観は、統治者・被治者間で当然に共有すべきものとされる。第三に、以上を前提に、被治者には一定の自由度が与えられ、自己統制と自己責任が推奨される。第四に、統治者は、被治者に"被治感"を感じさせぬよう、"中立的"監視技術(例えば、評価、監査)により遠隔統治を行う。 次に、「規制国家」については、主としてイギリス行政学界の先行研究を丹念に追うことにより、保守党政権における(政府"内外"の)規制興隆の実態を確認した。加えて、規制国家現象の孕む数々の問題性も明らかとなった。例えば、規制の重複による非効率、独立機関乱立による民主的アカウンタビリティの減退などである。なかでも、「規制者への規制(who regulates the regulators?)」の問題は、直截にNPM型統治の陥穽を看破しているという意味で、本研究全体にとって有力な視座を提供するものとなった。 最後に、「ブレア行革」については、国内外の資料を頼りに、第一期政権下での動向を整理・分析した。その結果、保守党政権と労働党政権との間には、とりわけ中立的監視技術の積極利用という点で、断絶よりも"連続性"が認められるのではないか、との仮説を持つにいたった。それは、例えば、ベスト・バリュー制度における監査の位置付けに典型的に表れている。
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