欧州統合を説明する理論の一つ、政府間主義的視点からの「従来の国家が国民に対してその役割を十分果たしきれなくなった」という見解は、EU環境政策の説明において一考に値するものである。国境を越える環境問題は、一つの国家だけでは解決不可能である。従来の国家の枠組みを認めながらそれらに対処するためには、まず、短期的・領域限定的な利益にとらわれがちな国家主権行使を克服する方法を確立しなければならない。EUの場合、経済領域が先鞭をつけたヨーロッパレベルの決定を行う機構と手続きを利用し、EU環境政策に関する制度構築が始まった。リオ宣言第10原則が示すように、また、従来の国家が政治的決定を行う際にその正統性を付与するものとして重視されたように、民主的な政治手続きの整備はEU環境政策に正当性を与えることにおいて重要な要件となる。 この過程でのEU環境政策への圧倒的な支持は、国家が国益を譲歩・放棄したというよりは、協力することが自らの利益につながるのだという積極的な認識があったと解釈すべきであろう。それゆえ、財政支援など環境政策の遅れた国への配慮がなされ、方や追いつく努力をすることになった。その一方で、健康・安全・環境保護を理由とした国家主権や自己決定権の主張が今なお無効ではない。「その措置の規模または効果から見て共同体による方がよりよく達成できる場合には…措置をとる」という補完性原理が条約に明記されているように、既存の国家内において構築されてきた統治能力を重視していることは明らかである。EUが環境政策に着手するからには、国家のみでは不可能なより大きな成果が各国政府、つまりは一般市民に納得されなければならないのである。 しかし、国際社会に対する行動が求められる場合-環境外交-において、EUのリーダーシップを支える権限能力・手段に対する評価は、現在までのところ限定されている。ここには、欧州統合の政治的側面を配慮した分析が必要となろう。
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