本研究は、16世紀スペインのインディアス問題を詳細に考察することを通じ、国際的側面からみた近代政治秩序の形成過程を描き出す試みである。本年度は、本研究の二つの目的-インディアス問題の全体像を体系的に提示すること、その意義を文明論の文脈で明らかにすること-のうち、前者を達成した。具体的には、三つの争点-(1)インディオは人間か、(2)スペイン人はいかなる理由で彼らを統治しうるか、(3)またいかなる場合に征服戦争を起こせるか-のうち、検討課題として残されていた(3)の議論について、「戦争への法」と「戦争における法」からなる正戦論の伝統に照らして分析し、セプルベダ、ビトリア、ラス・カサスに代表される三つの主要な立場の異同を明らかにした。 作業の遂行にあたっては、貴重資料が多いため、所属研究機関を通じてノートルダムやワシントンといった国外の大学図書館、および九州や同志社といった国内の大学図書館から原典と先行研究を収集・精読し、その成果をまず、「ラス・カサスにみるインディアス戦争批判」(第98回スペイン史学会定例研究会・於拓殖大学)、および「16世紀スペインにおける征服戦争正当化の論理」(第9回政治思想学会・於熊本大学)で口頭報告し、批判をあおいだ。ついで、ビトリア思想に関する英語の先行研究を翻訳・公刊し(「国際関係思想史』新評論、第5章)、知識を深めた。また、前期は主として国内の研究者に、後期はスペインの研究者に、準備中の草稿を送付し、メールにて意見交換を行った。これらの研究活動をもとに、最終的にスペイン要旨つきの雑誌論文(別記)をまとめ、本年度の研究成果として公にした。さらに、本研究の総括として来年度以降の中心課題となる博士論文(スペイン国立マドリード大学政治社会学部に提出予定)の執筆も進め、その一部を外国語校閲に付した。
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