研究概要 |
本年度の研究においては,次の3つの課題に取り組んだ. 1)環境税収を年金財源として活用したとき,それが経済成長にどのような影響をおよぼすか. この研究で想定するモデルにおいては,経済は,イノベーションのないレジームと,イノベーションのあるレジームの二つを経験する.前者においては,総資本と環境水準は一定にとどまり,後者では,資本と環境は時間を通じて増大し続ける.経済がどちらか一方のレジームに収束するかあるいは両レジームの間を循環し続けるかは,環境税の水準に依存することが示される. 2)社会保障政策の政治決定プロセスとその経済成長・厚生への影響. 年金に代表される世代間所得移転政策が,社会保険税を支払う若年世代と社会保障給付を受ける老年世代との間の世代間利害対立を経て政治的に決定されるプロセスについて理論的に検討した.分析の結果,出生率の減少や寿命の増大による人口構成の変化が,政治的政策決定プロセスに重大な影響を及ぼすことが明らかになった. 3)境税政策の政治的決定プロセスとその経済成長・厚生への影響 2)の研究で構築したモデルを環境税政策の決定に応用して分析した.環境税は貯蓄の利子率を通じて負の効果をもたらすため,貯蓄のリターンで老年期の消費をまかなう老年世代は環境税の導入に反対する.一方,若年世代は環境税政策導入による将来の環境改善から便益を得るため,導入に賛成する.この世代間利害対立が環境税政策の決定にどのような影響をおよぼすかを分析した.
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