本年は研究期間の初年度でもあり、文献の狩猟が中心となる予定であったが、すでにいくつかの、知見が得られた。本計画は契約の不完備性と司法判断・社会規範形成の関係について研究することであり、研究計画書にもあるように労働法を突破口に研究を進めた。 日本では判例法理として企業の解雇権が制限され、一種の社会規範とみなすことができる。今年度はその解雇規制に関する救済手段として、職部復帰と賠償金の二通りが考えられるが、その経済厚生に与える影響について分析し、賠償金による救済が復職による救済よりも社会的に望ましいことを明らかにした。この研究成果は、2002年秋の日本経済学会で発表され、今年は海外の学会で発表する予定である。 また、解雇規制の有効性に関する論点を整理した論文「整理解雇規制の経済分析」が大竹他編「解雇法制を考える:法学と経済学の視点」(勁草書房)の1章として公刊された。また、これに関連する論文"Employment Protection Regulation and New Hiring"他を欧州の学会で発表し、インドの研究機関から採録の申し出があるなど、高く評価された。 さらに労働法から大きく踏み出し、最近論争となっている企業内研究における発明(職務発明)は、企業と従業員のどちらに権利を与えるべきかという特許法(特に35条)の規定に関する問題も分析した。従業員保護の観点から、発明の権利は従業員に与えるべきという主張が目立つが、労働者のインセンティブとリスクの観点から、企業に与えるのが社会的に望ましいという結論を得た。
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