今年度の最大の成果は、日本の銀行行動に関するパネル・データを用いた実証分析である。今年度前半において、日本経済の長期不況に関するデータ・文献を検討した。その結果、近年、金融政策の効果が著しく低下しており、その重要な要因として貨幣乗数の低下があることが明らかになった。その原因を明らかにするために、1974年以降の銀行の財務諸表を網羅した膨大なデータ・セットを購入し、銀行行動の変化の原因を計量経済学的に検討した。まず、日本銀行によるマネタリー・ベースの増加に対する銀行貸出の弾力性が近年著しく低下していることが明らかにされた。次に、この弾力性低下を説明しうる要因の候補として、自己資本比率の低下に代表される銀行の財務状況の悪化、日本銀行のゼロ金利政策の二つを取り上げてデータ分析を行い、後者の方が弾力性の低下の原因としてはるかに重要であることを示した。この研究は"Who killed the Japanese money multiplier?"と題する論文としてまとめられた。この論文は国際コンファレンス"New development in the Asia Pacific Region : Economic Analysis Using Micro Data"で報告され、高い評価を受けると同時に多くの有意義なコメントを得た。 今年度第二の主要な成果は、東京大学のR. Anlon Braun氏との共同論文"How are macroeconomic risks priced in the Japanese asset market?"の全面改訂である。前バージョンでは計量経済学的な測定に重点が置かれていたが、今回、日本の株式収益率の変動がどのくらい経済理論で説明できるか、という理論的側面を強調したものに完全に書き改めた。なお、この論文を2002APFA/PACAP/FMA Finance Conferenceで報告し、同コンファレンスのBest Paper Awardを受賞した。
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