研究概要 |
今年度の最大の成果は、貨幣乗数と金融政策効果の低下の原因をミクロデータを用いて検証する分析をさらに発展させたことである。このテーマに関連して三つのプロジェクトが進められている。第一は、銀行行動に関する研究である。昨年度に第一稿を完成させた論文、"Who killed the Japanese money multiplier?"を、多くの専門家のコメントをもとに大幅に改訂した。改訂版においてはゼロ金利近傍における銀行行動の非線形性が明示的に取り入れられ、その結果として日銀の低金利政策の影響の大きさの推定値がより大きくなった。また、本補助金によりデータをアップデートし、より最近の銀行行動の分析が可能となった。この論文を統計研究会金融班夏季コンファレンスおよび2003年日本経済学会秋季大会で報告したところ、大きな反響があった。現在はこのとき得られたコメントをもとにさらに改訂作業を進めている。第二に、企業サイドの要因に関する分析を開始した。この研究は現在、企業財務に関する膨大なパネル・データセットを構築しながら、目的に合致した分析手法を開発しているところである。第三に、家計サイドの要因を資産選択行動の観,点から分析する研究を行っている。現在はトービット分析やヘックマンの2段階推定法などを駆使した予備的研究を実行している。 今年度第二の主要な成果は、日本の金融政策の効果がどのように国際的に波及していくかを理論的に明らかにする分析である。特にアジア諸国への波及に焦点を当てるため、アジア・日本・アメリカの3国からなる動学的モデルを構築した。このモデルの特徴は2種類の貿易財(ハイテク財と非ハイテク財)と非貿易財を含み、3国間の現実的な貿易関係が前提とされていることである。この論文をTCER旧逗子コンファレンスで報告した。現在はこのモデルを活用して、アジアにとって最適な通貨制度は何か、を明らかにしようとしている。第三の主要な成果は、東京大学のR.Anton Brauh氏との共同研究の進展である。日本の金融政策と利子率の期間構造の関係に関する論文を改訂し、主要な国際的学術誌に掲載許可を受けた。また、マクロショックと株式収益率に関する論文を、家計の最適化行動という視点を前面に押し出したものに改訂した。第四の主要な成果として、所得収束に関する論文の最終稿を完成させ、主要な国際的学術誌から掲載許可を受けた。
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