研究概要 |
(1)「夫の失業リスクと妻の労働供給」(2004年3月)では、『消費生活に関するパネル調査』により、夫の失業リスクが高い家計の妻は労働供給を増加させようとすること、ただしさまざまな制約により実際には増加させられないことを明らかにした。(2)「雇用保険制度が長期失業の誘引となっている可能性」(2004年7月)では、失業者に関する複数のミクロデータとマクロデータを用いて、失業期間は1990年代に長期化したが2000年以降は長期化傾向が見られなくなったこと、とくに2001年4月の雇用保険制度改正が解雇・倒産以外の理由で失業した者の再就職を促し失業を短期化させたことを示した。 (3)「失業の増加と不平等の拡大」(2005年近刊)では、1984,89,94,99年の『全国消費実態調査』により、90年代の失業増加時期にも不平等は拡大していないこと、失業世帯と非失業世帯の間の所得格差は多少大きくなった可能性があるものの、厚生(消費)の格差は拡大していないことを示した。また、この時期の失業世帯には貧しい者から豊かな者が混在するようになったことが分かった。(4)「失業と家計貯蓄」(2005年投稿中)では、『家計と貯蓄に関する調査』を用いて、日本では家計を担う者が失業しても貯蓄を取り崩さないこと、この傾向はもともとの(失業前の)豊かさで変わらないことを示した。90年代の失業増加は金融資産の格差拡大につながっていない。 日本は90年代半ば以降に急激な失業増加を経験したが、この間に失業世帯と非失業世帯で格差が拡大した様子は伺われない。ただし失業者には厚生(消費)の意味でも資産(貯蓄)の意味でも貧しい者から豊かな者までが存在するようになった。失業していることだけをシグナルに生活の困窮度を把握することは困難である。失業対策は、失業者全体への一律の所得移転ではなく、生活困窮者にターゲットを絞った社会保障として行う必要がある。また、家計を担う者の失業リスクを分散させるために配偶者(多くは女性)が働きたいと持っているのに、制度上の歪みなどで働けない状況にあるならば失業による家計厚生の低下は世帯所得の金額で測る以上に大きい。既婚女性の市場労働を促進させることが重要である。90年代の失業対策は格差を拡大させていなかったが、ターゲットを間違えれば不平等拡大政策となりえる。
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