研究概要 |
今年度は研究実施計画にもとづいて,(1)前年度のモデルを時系列モデルに拡張 (2)変数間の非線形関係を記述するモデルの作成 (3)(1),(2)で提案されるモデルに対し,マルコフ連鎖モンテカルロ法による推定方法の開発 の三点を中心に研究を進めた. (1)については,Engle and Russell(1988,Econometrica)によるACD(Autoregressive Conditional Duration)モデルでは価格変動の情報を利用していない点に注目してモデルの拡張を行った.具体的には,取引によって価格が上昇した場合と下落した場合とを区別してハザード関数を定式化し,それらを前年度の競合リスクモデルに取り込んだ.また,ハザード関数を過去の取引間隔に依存させることにより,時系列モデルへと拡張した.提案するモデルは柔軟なハザード関数を持ち,さらに利用可能な情報を有効に使っていることから,ACDモデルよりもデータの動きを説明していることが確認された. 次に,取引間隔は自身の過去の値だけでなく,取引量など他の変数にも依存していることが既存研究で明らかになっている.そこで,本研究ではそれらの依存関係を変動係数モデルによって表現しACDモデルの拡張を試みた.データ数が多いことから,変動係数をスプライン基底によって表し,セミパラメトリックなモデルを作成した.また,節点の選択,オーバーフィティングなどの問題を,パラメータに罰則を課すことによって解決を図った.ここで提案するモデルを実際のデータに当てはめたところ,これまで捉えることができなかった変数間の非線形な関係が明らかになった. 本研究で提案するモデルは複雑であるため,マルコフ連鎖モンテカルロ法によって推定を行った.その際,Langevinアルゴリズムを利用するなど工夫し,より効率的なアルゴリズムの開発を行った. 今年度の研究成果は,現在論文としてまとめているところである.
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