本研究では、地震に対する家計や企業の危険回避行動の検証が目的である。この点について、東京都の地価と借家家賃を用いて、ヘドニック・アプローチにより検証を行っている。現在までに明らかになった成果を報告する。 近年いくつかの地方自治体において、様々な自然災害に対するハザードマップが公表され、住民の防災意識の向上と自立的な危険回避行動を促す行動がとられようとしている。そこでまず、特に地震に関する地域危険度が、どの程度地価に影響を与えているのかを分析した。 1998年に東京都は、地域ごとの地盤特性等の分析に基いた地震に関する地域危険度を町丁目ごとに公表した。このデータと1980年から2001年の地価公示データを用いて、東京都の地価関数を推計することで、地価が地震リスクをどの程度反映しているのかを検証する。さらに、ここでの推定結果から家計や企業がどの程度の地震災害リスク・プレミアムを割り引いて地価を評価しているのかを算出し、推定結果が理論的に妥当な範囲であることを示した。 1981年6月の建築基準法の改正により、これ以後の建築確認はより耐震性の高い新耐震基準によらねばならないとされた。一方、1981年以前の旧耐震基準に基づいた建物の建て替えや改修を促すための様々な施策が、国・地方公共団体によって実施されている。しかし、求められる耐震対策は、消費者の危険回避行動を前提とするか否かによって、その内容が大きく異なる。そこで、上記の地域危険度データと東京都の賃貸住宅の個票データを用いて、東京都の家賃関数を推定することにより、2つの分析を行った。第1に、地震に関する危険度が、東京都の家賃形成にどのような影響を与えているかを、耐震基準や建物構造ごとに家賃関数を推計し、建物構造の選択に関する消費者の危険回避行動を検証する。第2に、この推定結果をもとに、新耐震基準導入の有無による家賃の比較をしながら、耐震化投資が家主にとって収益的であるかどうかについての費用便益分析を行った。
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