本年度は、本研究の目的を達成するために必要な文献や資料の収集、およびヒアリング調査や意見交換を行った。その概要と成果については以下の通りである。 1.1925年頃から英国においては、実験計画や有意性検定による農事試験の分析およびそのデモンストレーションがはじまった。これに多大な影響を与えた統計学者のR.A.Fisherが在籍したRothamsted農事試験場(現IACR)、London大学および同大学図書館、Cambridge大学を訪問し、(1)実験計画、有意性検定による例証に対する農民の評価について、(2)旧来行われてきた専門家の知識や経験、洞察力に頼る説明と比べて、統計的証拠による説明が、どれだけ説得力を持ったのか、そして農民が農事試験の結果に対する理解を深めるのにどれだけ貢献したのかについて、明らかにする未公開資料や重要文献を収集することができた。また各研究機関のFisher研究者や当時の状況に詳しい研究者に対してヒアリングや意見交換を行い、本研究を遂行する上で有益な情報を得ることができた。 2.第2次大戦期の米国においては、軍・産・学共同による統計的品質管理の研究が行われ、その普及が急速に進んだ。まず、米国公文書館、米国議会図書館、およびDeming研究所を訪問し、(1)消費者が製品の品質を把握する上で、統計学によって形式化された抜取検査方式が果たした役割について、(2)それに対する消費者の印象や評価について、明らかにする米国政府・軍関係の行政文書や当時米国政府主催で開催された講習会や集中講義の資料等を収集することができた。つぎに、UCLAのT.M.Porter教授など当時の状況に詳しい研究者と本研究についてヒアリング調査や意見交換をし、貴重な助言や情報を得ることができた。 本年度末時点では、上記の文献資料や公文書等を分析している最中であるため、上記の成果を論文とするまでには到っていないが、次年度中に本研究の目的である、統計的証拠の社会的受容に必要な諸条件の解明を行って、これを学会で報告した後、論文として纏める計画である。
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