本研究で得られた成果の概要と研究発表の実績については以下のとおりである。 1.1925年以降の英国においては、実験計画や有意性検定による農事試験の分析およびそのデモンストレーションがはじまった。これに多大な影響を与えた統計学者のR.A.Fisherが在籍したRothamsted農事試験場、London大学、Cambridge大学、そして1930年代以降の統計手法の普及活動を支えた王立統計協会のアーカイブを訪問し、(1)実験計画、有意性検定による例証に対する農民の評価について、(2)旧来行なわれてきた専門家の知識や経験、洞察力に頼る説明と比べて、有意性検定による統計的証拠による説明が、どれだけ説得力を持ったのか、そして農民が農事試験の結果に対する理解を深めるのにどれだけ貢献したのかについて、明らかにする未公開資料や重要文献を収集することができた。また各研究機関のFisher研究者や当時の状況に詳しい研究者に対してヒアリングや意見交換を行い、本研究を遂行する上で有益な情報を得ることができた。 2.第2次大戦期の米国においては、軍・産・官共同による統計的品質管理の研究が行なわれ、その普及が急速に進んだ。まず、米国公文書館、米国議会図書館、およびDeming研究所を訪問し、(1)消費者が製品の品質を把握する上で、統計学によって形式化された抜取検査方式が果たした役割について、(2)それに対する消費者の印象や評価について明らかにできる、米国政府・軍関係の行政文書や当時米国政府主導で開催された講習会や集中講義の資料等を収集することができた。つぎに、UCLAのT.M.Porter教授など当時の状況に詳しい研究者と本研究についてヒアリング調査や意見交換をし、貴重な助言や情報を得ることができた。 3.上記2点の成果については、経済統計学会の関東支部の支部例会、そして経済統計学会の全国研究総会において口頭発表を行なった。また、経済統計学会の機関誌『統計学』第86号(2004年4月公刊予定)において本研究の成果の一部を発表した。さらには、本研究の研究成果の別の一部について、2004年2月に公刊した拙著『R.A.フィッシャーの統計理論-推測統計学の形成とその社会的背景-』(九州大学出版会)の第2章と第4章において発表した。来年度以降も本研究の成果を統計学関連の学会で口頭報告した後に、論文としてまとめる予定である。
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