研究概要 |
本年度はまず2004年5月20日から22日にカナダのケベックで行われた国際コンファレンス"Dependence Modelling : Statistical Theory and Applications in Finance and Insurance"に出席した.そこで,これまで行ってきたセミパラメトリック接合関数モデルにおける順位近似Z-推定量と最小距離推定量に関する研究の成果を発表した.その後コンファレンスの主催者であったGenest教授に勧められて,Proceedingsの代わりとなるCanadian Journal of Statisticsの特別号に論文を投稿し,その査読過程で提起された改善点について考察を進めた.第一に,擬似最尤推定量とは異なる順位近似Z-推定量をよく知られた順位相関係数から導くことができることを発見し,その推定量をKolmogorov-Smirnov距離に基づく最小距離推定量とともにシミュレーションに加えた.そして,アルキメデス型ではないPlackett族接合関数モデルについてもモンテカルロ法による推定量の比較を行った.その結果,ほぼどの族に対してもMSEが小さいという意味で擬似最尤推定量が最も良いことがわかった.ただし,順位近似Z-推定量はその繰り返し計算における初期値に強く依存することも示された.最小距離推定量についてはMSEが相対的に大きくなってしまうことが判明し,特にこの傾向はKolmogorov-Smirnov距離に基づく最小距離推定量で顕著であった.このことから,接合分布密度に基づく最小距離推定量も検討すべきであることが示唆されている. 上記論文に含まれている経験接合過程の漸近理論に関して,雑誌Bernoulliに最近発表されたFermanianらの論文"Weak convergence of empirical copula processes"(vol.10,p.p.847-860)では,経験過程の現代的アプローチを用いた結果が述べられているが,その中である種の統計量の漸近分布について誤った主張をしていることを指摘した.この議論で鍵となる多変数の場合の部分積分公式については,古典的なYoungの公式を拡張した最も一般的な形,すなわち多変数Lebesgue-Stieltjes積分に対して最低限の条件の下で成立つ公式を模索してきており,現在も継続中である.それが見つかれば,2変量の独立性検定統計量を初めとするノンパラメトリックな多変量解析で用いられる統計量に幅広く応用可能なことがわかった.多変量生存解析への応用として,データに打切り(censoring)がある場合についても同じセミパラメトリック接合関数モデルを適用して分析することが有効である.これについて,順位近似Z-推定量と最小距離推定量を定義することが可能であり,ある正則条件の下で漸近的に正規分布をもつことが示された.
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