今年度も、研究目的ならびに研究実施計画に記載の通り、先進諸国を中心とした結婚や出生に関するデータ収集ならびに解析を進めました。解析方法としては、初婚行動と第1子出生のタイミングの社会経済要因に関するプロビット分析とパラメトリック・モデルのサバイバル分析を試みました。その結果、やはり労働時間、就業状態、学歴、職種、所得といった雇用条件が結婚や出産の要因として統計的に有意であることが確認されるとともに、親との同居(パラサイト・シングル)、親の就業状態(社会威信度)といった家族関係、あるいは居住地域の都市化率といった文化的背景もその因子であることが明らかにされました。また、今年度特に重点を置いた要因としては、年金などの社会保障制度です。若年非典型労働者による第2号被保険者への未加入の増加や、いわゆる第3号被保険者問題などが個人のライフサイクルを通じて結婚結婚や出生行動を規制しているという知見が得られました。さらに、純粋に人口統計学の範囲内で、つまり経済社会的外生因子を組み込まないシミュレーション分析を試み、出生のキャッチアップ効果について計量分析したところ、将来的にその規模は小さく、出生率が反転上昇して少子化を解消するようなことはあまり期待できないという結果も得られました。しかし換言すれば、要因分析によって特的できた因子を政策的にコントロールすることができれば、誘導的に出生率を少しでも改善することも不可能ではないでしょう。なお、昨年度、ベルマン最適性原理による動的計画法とマルコフ確率過程理論を組み合わせた手法は理論的あるいは質的にはモデル化することはできたのですが、実証段階へ応用するにあたり、データ資料の限界があり、これの応用については今年度はまだ計量分析に至っておりません。
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