発展途上国における貧困に関する伝統的な研究は、時間的変化を考慮しない「静学的(static)」概念に基づいてきたが、近年の見方は、時間を通じた「動学的な(dynamic)」分析が不可欠となるというものである。さらに、政策的見地から見るとこれら二つの貧困概念を区分することが極めて重要であることが知られている。しかしながら、動学的貧困に関する研究は緒についたばかりであり、理論的な研究はもとより、データの制約から組織的な実証研究がほとんど行われていないのが現状である。 このような背景のもと、動学的貧困問題を理論的・実証的に分析するため、平成14年度の本研究においては、分析枠組みの構築と家計調査データの収集が行われた。具体的には、韓国・フィリピンにおいて既存の家計調査データの収集と、フィリピンについてはその調査対象家計の追跡調査を行い、その上で収集された既存データとフィールドデータを統合・整理し、一時的な分析を行った。韓国については、Korean Household Panel Dataの分析をするとともに、延世大学で開かれた国際会議などに参加し、分析枠組みの発表・討論と情報の収集を行った。フィリピンにおいては、国際稲作研究所(IRRI)研究員・フィリピン大学ディリマン校経済学部の研究者などの協力を得て、パナイ島(イロイロ市)においてIRRIが調査してきた家計の追跡調査を行った。さらに、マニラにおいては、アジア開発銀行(ADB)でセミナー発表と情報交換を行った。また、収集された情報をもとに、データファイル構築を開始し、さらに若干の一時的分析を行った。
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