本研究プロジェクトの2年目にあたる本年は、近年の貧国削減戦略と社会関係資本に関する最新の理論的研究と並行して、事例研究としてカンボジアにおけるフィールドワークを行った。 第1に、理論研究においては、「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」をキーワードとする「人間安全保障(Human Security)」に関する研究を、貧困削減や社会関係資本と関連付けながら、本学の人間安全保障研究会を中心に行い、その成果の一部をワーキングペーパー等にまとめた。政策的にみても本年度緒方貞子、アマルティア・セン共同議長により、国連人間安全保障委員会より最終報告書『安全保障の今日的課題』が出されたのに伴い、わが国も人間安全保障を今後の政府開発援助(ODA)政策の機軸にすえ、また緒方氏自身が国際協力機構(JICA)の理事に就任する等、今後の貧困削減戦略を考える上では不可欠の議論である。 第2に、事例研究としては、カンボジアの農村開発における住民参加型の貧困削減と社会関係資本の役割について、スバイリエン州およびバッタンバン州についてNGOやコミュニティを訪問し集中的に調査を行った。長年カンボジアは戦禍にみまわれ、戦争による恐怖と極度の貧困により、まさに人間安全がうばわれた状態であった。戦後復興の過程において、カンボジアの農村では仏教寺院が文化的・社会的中心すなわち社会関係資本のハブとしての機能を果たし、社会経済活動が再開されていったことは歴史的事実として知られている。今回の調査をつうじて、多くの寺院がNGOとともに住民を文化的社会的にコーディネイトして米銀行、植林、人材育成等様々な貧困削減プロジェクトを行う等カンボジアの社会関係資本にとって重要であることが具体的に明らかになった。 次年度はカンボジアで追加調査を行いつつ、最終的な成果の取りまとめを行いたいと考えている。 (778字)
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