本研究プロジェクトの最終年度にあたる本年は、研究の集大成としてこれまでの理論研究及びカンボジア現地における予備調査を踏まえて、カンボジアの社会関係資本と貧困削減に関する本格的なフィールド調査を行い、近年わが国のODA政策の柱となっている「人間の安全保障」の観点から貧国削減と社会関係資本にかんするインプリケーションを検討した。 カンボジアにおけるフィールド調査の概要は次の通りである。期間は2004年8月22日〜9月10日(20日)で、対象地域はかつての激戦地であり、もっとも貧しい地域の一つとされるスヴァイリエン州である。これまでの研究において、カンボジア農村では寺院がコミュニティの中心として社会関係資本の担い手である事が明らかになっていたため、NGOおよび州宗教局の協力を得て、州内全226カ寺のうち、全郡の主要83カ寺を対象に質問票を用いたインタビュー調査を行った。 主な発見は次のとおりである。1)公共セクターのサービスが十分でないカンボジアにおいては、寺院コミュニティの中で住民がおこなう学校建設や道路の整備などの社会開が貧困削減に大きな役割を果たしており、「内部結束型社会関係資本」として機能している。と同時に2)寺院コミュニティ間にもネットワークがありお互いのコミュニティの活動を扶助しており、「橋渡し型社会関係資本」として機能しており、3)こうした寺院による社会開発にはNGOが重要な役割を果たしている。 最後に、本研究が明らかにした草の根の社会関係資本と貧困削減の営みは、カンボジア王国政府の「国家貧困削減戦略」(NPRS)やわが国の「国別援助戦略」にも盛り込まれていない、きわめてユニークな発見であり、今後の「人間の安全保障」の観点に立った開発援助戦略に対して理論的・実証的貢献が出来たのではないかと考えている。本研究で得られた成果は、2005年度にも単著にまとめ出版の予定である。
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