研究概要 |
本研究の目的は、ソ連・ロシアにおける人口移動=労働供給の変化と工業立地との同時性を検討し、政府主導による地域開発の限界と新たな展望を見いだすことを試みるとともに、生産要素移動・集積の経済と地域経済成長との相互関係を、西欧諸国とは対局の事例と捉え得るロシアを対象とした歴史的計量分析を進めることにより明らかにすることである。 ソ連の地域経済を概観したのち、情報公開法に基づいて1999年から利用可能となったソ連閣僚会議・ソ連中央統計局内部資料を用いて、ソ連工業化過程初期における地域工業生産の推移を検討した。それにより、ソ連時代初期においては工業生産額の高い地域は各地に分散していたが、そうした高労働生産性を示す地域は時が下るに従いモスクワを中心とする欧州部へ集中していったことを確認出来た。これによりKumo, Soviet Industrial Location : Estimating Industrial Output by Region, Annals of Economic Studies, vol.40,2001の推計結果を、一次資料によって裏付けることが出来た。 さらに1990年以降のソ連崩壊後におけるロシア地域間人口移動構造の計量分析を行った。混乱状態を残すロシア経済の分析に定量的手法を適用することは未だ困難であるが、しかし分析結果は明らかにQOL指標がロシアにおける地域間人口移動分析においても大きな意味合いを持つことを示した。またソ連崩壊前・崩壊後の間での人口移動パターンに生じた変化の背後にある論理を理論的に解釈し、負の遺産としてのソ連開発政策の影響を捉え直すことが出来た。 初年度に得られた、これまで隠蔽されてきた膨大な統計等を整理・分析することにより、次年度(完成年度)は地域産業構造の相違の詳細な検討・空間的相互作用モデルを利用したソ連地域間労働力移動の分析を行う。
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