本年度は、文献資料の購入・整理・精読、研究所訪問等を通じて、研究のレビューを行うことに主眼をおいた。 まず、生活水準・家計調査データから、移行期ロシアの生活水準や経済格差の現状を跡づけた。ソ連期と比較し生活水準は大幅に低下し、経済格差も拡大した点に加え、貧困層に該当するのは必ずしも年金生活者ではなく、子供の多い家計や失業者のいる家計であること、金融危機の影響は2000年以降ほとんど見られないこと、食料品を中心とした現物部分の大きさや安価な公共料金等により、ロシア人の生活様式に危機を自衛する仕組みが組み込まれていることが新たに示された。また、近年の経済成長の影響もあり、中間層の規模も20%程度に達していると推測された。【後述の雑誌論文参照】 9月にはイルクーツク大学で研究報告"Comparative Study on Changes in the Middle Class between Russia and Japan"を行った。ロシアの資本主義への移行度を見るための重要な基準として中間層の形成を挙げ、中間層の変容が言われる日本と比較した。ロシアの課題は安定した中間層を作り上げることであり、所有権の保護、治安の改善等が求められる。日本もかつてのような平等社会ではなくなっており、セーフティ・ネットの強化が求められる。その際、ロシア社会のもつ独自のセーフティ・ネットから学ぶ点があるという点を強調した。 国内での資料収集(京都大学、北海道大学)のほか、11月にはモスクワで資料収集および研究機関訪問を行った、社会経済人口問題研究所のL.コザルス上級研究員からはロシアで社会調査を行う上で経済社会学の手法を用いることが重要である点を、国立人文大学のL.ティモフェーエフ教授からは現代ロシアを分析する上でソ連期との連続性を重視するべきである点を指摘された。来年度以降の研究に活かしたいと考える。
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