本年度は、文献資料の購入・整理・精読、研究のレビューを行いながら、研究成果を学会で報告するとともに、年度末にはロシアで調査を行った。 まず、研究会の開催を通じて、現代ロシア社会分析に有効な経済社会学の分析手法をレビューした。5月には体制転換と社会変動とのかかわりを、3月には社会調査をもとにロシアのクラン資本主義について検討した。 8月および10月には、それぞれ比較経済体制研究会および経済理論学会にて、体制転換と生活様式との関係について報告を行った。ロシアの生活様式を、経済格差の拡大にともなう市場の分断化、人々の生き残り行動、企業の役割という3点から特徴づけ、貧困層も含め広く観察される生き残り行動が、経済格差の拡大から生活を自衛する役割を果たしていることを示した。市場移行にともない、概して生活様式にも市場化の傾向が確認されるが、同時に市場化と逆行する形で生活様式の共同体化が生じているといえる。 2月にはモスクワで調査を行った。VTsIOM-AのYu.レバダ博士、ロシア科学アカデミー社会経済人口問題研究所経済社会学部門部門長のRルィフキナ氏、同上級研究員のL.コザルス氏に面会し、生活・社会意識面から見たロシア社会の変容、階層分化の現状等について議論を行った。 3月にはこれまでの成果をもとに、課程博士論文を提出した。体制転換にともない生活様式にも変化がみられるが、階層分化の基準、人々の社会意識などにはソ連期との連続性が強く観察されること、このことは経済改革を阻害し、市場経済化の進展を阻むと同時に、独自な社会的セーフティ・ネットとしてロシア社会の安定性に寄与していること、中間層の未成熟などにみられるロシア社会の不安定要因にもかかわらず、ロシア社会の持続可能性は低くないことを主張した。
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