本年度は、文献資料の購入・整理・精読、研究のレビューを行い、研究会に参加して関連の研究成果をレビューするとともに、学会で研究成果を報告して、3年間の研究の総括を行った。 まず、研究会への参加を通じて、経済格差の拡大をはじめとする現代ロシア社会の課題をレビューした。6月には比較経済体制学会全国大会に、11月には比較経営学会西日本部会に出席した。 9月には比較経済体制研究会第23回夏期研究大会にて、社会的側面からみたロシアの今後の持続可能性についての報告を行った。ロシアには大きな経済格差、大量の貧困層が存在しているが、それが階層間の直接的対立につながっていないこと、プーチン期にロシア社会の安定性はより高まっていること、そのため人々は多くの非民主主義的な政策にもかかわらずプーチン政権を支持していることを示した。 12月〜3月には京都大学、北海道大学等で資料収集を行うとともに、R.ルィフキナ編著『体制転換のドラマ』(仮題、桜井出版、2005年予定)にかかわる翻訳打ち合わせを行った。今後もこの作業は継続する予定である。 また、本年の研究成果として「ロシアにおける体制転換と生活の再編成」(上原一慶編『躍動する中国と回復するロシア-体制転換の実像と理論を探る-』高菅出版、2005年3月、第I部第7章)が刊行される。体制転換にともなう経済格差の拡大は生活の二極化を導いていること、他方で生活の現物化や人的ネットワークの存在が生活水準の低下を下支えする役割を果たしていることを明らかにした。 3月にはこれまでの研究結果をもとに、成果報告書をとりまとめている。結論として、ロシアを独自な資本主義の型とみる視点にもとづき、ロシア社会は先進資本主義諸国と異なった独自な社会階層構造を有しており、ロシアにおける市民社会の形成は未成熟な中間層の存在を前提に検討される必要があることを主張している。
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