企業の生産性が企業経営者の行為・努力を通じて上昇するメカニズムについて、理論的な整理と新しい論理的視点の形成において研究が進展した。経営者を直接的に動機づける要因として、既存研究においても製品市場における競争、またコーポレートガバナンスの仕組みが挙げられているが、精査してみると過去の研究においてそれらの概念の把握は一貫性がなく、理論的にも実証的にもそれらの要因がどのように生産性の向上に結びついているか明らかでないことがわかった。例えば、競争については、産業における企業数、製品間の代替の弾力性、利益率、需要の価格弾力性など様々な指標が競争の程度を表すパラメータとして用いられており、しかも生産性向上に結びつくメカニズムは不明確である(その点については業績表の論文を参照)。また、コーポレートガバナンスの経営者に対する動機づけについては、株主による厳しいモニターが必ずしも望ましくないケースを分析した論文をほぼ完成したが、出版には間に合わなかった。 さらに、間接的に企業の生産性向上に結びつく行為・努力を経営者に動機づける要因について細かい整理を行った。この作業はマクロ経済学の成長理論の実証研究と企業生産性のミクロレベルの実証研究を広範にサーベイすることによって行われた。その結果、人的資源の蓄積、金融システムの整備、インフラの整備、製品需要、技術機会、サポート産業の存在、マクロ経済環境の安定などのほかに、企業活動を支える制度の重要性が明らかになった。しかし、そのような制度についての分析は学会でもまだ新しく、財産権以外の制度については、あまり理解が進んでいないことも明らかになった。 現在は、以上の成果を回帰分析のモデルに反映する形で、インド企業における生産性の実証研究を継続して行っている。
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