本年度は、申請者が平成11〜12年度科学研究費補助金奨励研究(A)「新卒労働市場における大学教育の効果に関する実証分析」(課題番号:11730037)を通じて得た知見に基づく雑誌論文を継続的に公表すると共に、研究課題に基づく新たな調査票調査を実施した。 「阪神地区公立高等学校出身者のキャリア形成に関する調査」は、学卒後一定期間を経過し、ある程度の就業経験を得て、キャリア形成を強く意識するようになった30歳代を対象に、個人のキャリアと転職時に利用した方法・媒体の現状、および今後の転職意識を明らかにすることを目的としている。その際、キャリアの多様化について、特に「雇用の受け皿」としての期待が高まっているNPOに注目し、NPOでの活動経験や保有するイメージを問うことで、一般に人々はNPOをどのようにとらえているのか、またNPO活動はキャリア形成の一貫として位置づけられ得るのかを検証することを試みた点が、本調査の貢献の一つとして挙げられる。 その結果、転職に関しては、例えば子どもを持つ既婚女性は、「勤務地」や「労働時問・休日数」等を考慮し、無駄な費用をかけないために「新聞・チラシ」を利用することが多い等、個人の基本属性によって利用する方法・媒体、重視する項目に差異が生じていることが分かった。今後、誰が、どのような方法・媒体を通じてこれらの情報を入手し、それがどのような結果をもたらしているのかを計量的に分析することで、雇用流動化時代に対応した転職市場における最適なマッチングについて、特に方法・媒体面から考察したい。 NPOに関しては、マスメディアからの広く浅い情報接触による特定のイメージ形成が懸念されることから、NPOに対するイメージやNPO活動への参加の意思を決定する要因をより厳密に検討するために、個人のキャリアの差異を加味したモデルを構築し、計量的に分析する必要がある。その推定を通じて、NPOに対する特定のイメージ形成要因や、それがNPO活動への参加の意思決定に結びついているかどうか、また、それは主に個人のキャリアと情報の入手経路・イメージのどちらに起因しているのか等を明らかにし、NPO、行政、教育機関等が、今後どのようなスタンスで、どのように働きかけていくべきかについて、一定の方向性を見出したい。
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