本年度は、台湾のSARS騒ぎなど支障もあったが有意義な研究を行うことができた。特筆すべきこととして、植民地時代台湾における養蚕業の発見がある。 従来は、米穀にしても糖業にしても台湾経済史研究において着目された農業は「成功」した産業ばかりであった。それ以外も、日本の敗戦による中断などと言い訳の可能なものばかりであった。しかるに、養蚕業は大正期に総督府が専任技師の下で、多額の経費を投じて取り組んだにもかかわらず、台湾人農村社会に定着できなかった、という言い訳不能な「失敗」をしている。よって養蚕業を研究すれば、総督府の種々の施策を台湾人がどうして受け入れなかった、そして失敗を総督府側はどう総括したのかが解明できる。またこの養蚕業の「失敗」と比較することで、米穀や糖業で総督府の施策がなぜ「成功」したのかが、より深く解明できる。しかしながら今まで誰も植民地時代の養蚕業に着目しておらず、拙稿「植民地時代台湾の繊維産業政策」論文が事実上の初言及と言って良い。 この養蚕業の解明に力を注いだため、当初の予定であった、米穀を事例としての研究こそ行えなかったが、本科研の課題自体は、精力的に研究を行えた。技師組織や主要技師の動向については、養蚕業に関して(去年、科研費を使って収集した資料を利用しながら)解明を進め、拙稿にも一部発表できた。国内旅費は、資料収集と台湾史研究者との打ち合わせに活用した。海外旅費は、台湾では養蚕業に関する総督府文書などの資料収集を行った。消耗費は、記事を集めたCD-ROMの購入であるが、論文執筆に活用できた。 来年度は、本年度の分析をもとに、養蚕業ならびに関連産業を事例として総督府技師の施策と台湾人の動向との相互作用の研究を進める予定である。
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