研究概要 |
今年度は金融市場の不完全性と所得分配の関係について実証分析を行った.この研究は,私自身の,金融市場の発展と所得分配に関する理論的研究に基づいたものである.フィリピンのアジア開発銀行およびタイの国家統計局で,タイ家計に関する資料収集を行ったうえ,最近24年間のタイにおける所得分配の悪化が,金融市場の発展とどのように関係しているかを考察した.その結果,金融市場の発展が所得格差の縮小をもたらしていることを示す,ある程度の証拠が得られたが,モデル選択によってはこの効果が見られない場合もあることがわかった.所得分配悪化の原因は金融市場の発展よりもむしろ,経済発展に伴う部門間(たとえば農業部門と非農業部門)の所得格差拡大が重要であることを,分析結果は示している.理論的には金融市場の発展は所得分配を改善する可能性も悪化させる可能性もあるので,この結果は不自然なものではない.しかし,さらに研究を深めて影響の方向を特定することも必要と思われる.この研究成果を論文にまとめる作業はほぼ終了しており,近いうちにワーキングペーパーの形で発表したうえで,学術誌に投稿する予定である. また,これと同時並行で来年度以降の分析に向けて,資料収集を進めている.日本の個票データを分析する目的で,全国消費実態調査を用いることとし,現在内閣府に個票データの利用を申請中である.来年度の早い時期にはこれが利用可能になり,分析を開始することが可能になる予定である.またすでに全国消費実態調査のCD-ROM版を発注している.収録された集計データを用いて,予備的な分析を開始する予定である. 更に金融市場の不完全性に関する理論的研究も同時に進行中であり,既に学術誌に投稿済みである.
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