本研究プロジェクトは2年間計画であるが、1年目の平成14年度は、関連論文のサーベイ、データ収集、理論分析・実証分析の一部を行った。 生涯効用の最大化をめざす家計のポートフォリオ決定は次のように考えられる。まず、家計は各時点で消費と貯蓄の配分を決定する。次に、決定した貯蓄の下で各資産への投資配分を決定する。本研究の予備的作業として賃金の不確実性が貯蓄に与える影響について検証し、研究成果の1部が『生命保険論集』に掲載される予定である。来年度は、本年度の研究成果を踏まえて、賃金の不確実性が家計のポートフォリオ選択に与える影響について分析する予定である。 長引く景気低迷や雇用不安を背景に、最近では予備的貯蓄の高まりが指摘されている。限界効用関数が下に凸の形状であれば、リスクの増大から貯蓄を増大させる可能性があるが、リスクの増大は必ずしも貯蓄を増大させるわけではない。所得のハイリスク・ハイリターンの関係を考慮すると、将来の期待所得の増大が現在の貯蓄を低下させる可能性もある。これは消費の平準化効果である。絶対的プルーデンス(3次の偏微係数と2次の偏微係数の比)が絶対的危険回避度の2倍を上回れば、リスクの増大とともに貯蓄が増大することがわかっている。所得階層別のデータを用いて実証分析を行ったところ、バブル崩壊以降、賃金リスクの高まりが貯蓄を増大させる傾向が低所得階層の世帯にみられた。 リスクの増大によって貯蓄が増大しているとき、増大した貯蓄は危険資産ではなく安全資産に向かう可能性が高く、日本の家計のポートフォリオ選択の特徴として指摘されてきた「預貯金偏重」がさらに強まる可能性がある。ただし、効用関数の形状等の条件によっては、リスクの増大が危険資産への需要を低下させるとは限らない。平成15年度は賃金リスクの増大が危険資産に対する需要に与える影響を分析する予定である。
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