2年間の研究期間の1年目ということで、次の3つの研究に取り組んだ。具体的には、(1)既存研究のサーベイ、(2)公的年金税制の改革に関する研究、(3)新たなデータとモデルを用いたプログラムの作成、である。それぞれについて簡単に概要を述べる。 (1)の成果については、「社会保障のライフサイクル一般均衡分析:モデル・手法・展望」『経済論集(東洋大学)』第28巻第1号に収められている。本論文では、これまでの既存研究をサーベイし、モデルと手法について詳細に解説し、今後の展望について述べた。わが国では、ライフサイクル一般均衡分析についての初めてのサーベイ論文である。当該分野の参入障壁を下げ、今後の発展に寄与する論文になると期待している。 (2)については、今後の税制改革において改革の対象となる公的年金税制に焦点を当て、公的年金税制の改革による効果を、世代間の経済厚生の観点から評価した。その成果は「公的年金税制の改革と世代間の経済厚生」『総合税制研究』第11号に収められている。ライフサイクル一般均衡モデルに公的年金税制を組み込んだのは、この論文が初めてである。公的年金等控除の縮小が世代間の経済厚生の格差を是正するには望ましいという政策的インプリケーションを得ている。 (3)についてであるが、現在、国立社会保障・人口問題研究所による新しい人口推計データの組み込みと、遺産動機にバラエティを持たせたモデルを使ったコンピュータ・プログラムを開発中であり、研究期間の2年目において、今後の公的年金制度改革の評価を行う予定である。 なお、2002年6月から国立社会保障・人口問題研究所の所外研究員として、公的年金に関する重複世代モデルを用いたシミュレーションプログラムの開発プロジェクトに関わるようになっている。
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