本研究は、地域経営論が必ずしも十分に体系化されていないなかで、マーケティング概念を援用して真に住民ニーズに立脚した枠組みを創ることができないかという問題意識から出発し、自治体マーケティングのモデル転換を軸とした地域運営論のマーケティング論的な体系化を目的としている。本年度は、研究の「基本モデル」たる「マーケティング・ネットワークの地域モデル」について、次のような精緻化等を行った。 まず第一に、中山間地の事例から導出した基本モデルがそのままでは自治体が大規模化し住民数が増大する都市部に適用できるとは考えにくい状況下、全国初の公設市民運営型中間支援組織を立ち上げるなど都市部でも極めて先進的とされる鎌倉市の事例を調査した。そして、"都市部モデル"とでも称すべき鎌倉の仕組みは、(1)自治体マーケティングの関係性モデルへの転換、(2)公設市民運営型中間支援組織の設立とそのマーケティング、(3)((2)を核にした)NPO等日の結節組織レベルにおけるマーケティングのネットワーク化、という3要素から構成されていることを明らかにした。更に、その都市部モデルは、住民ニーズを吸い上げる既存装置たる議会制民主主義制度が形骸化しつつあるなか、それを補完して主体化した住民の真のニーズを実現する「地域運営の革新的な仕組み」であることを指摘した。 次に、地方財政の危機等を背景に自治体が地域運営の主導的主体から"撤退"する一方、自治体運営におけるマーケティングの"位置問題"は依然残ったままである状況下、マーケティング機能を中枢に据えた自治体運営の基本構造を提示し、「自治体マーケテイング」の位置づけとその新たな展開および今後の課題を提示した。 また、基本モデルが資金循環の仕掛けを必要としている点を確認し、地域運営の重要な運営資源の1つである郵便局(郵政3事業)の歴史を通してその多義的な性格を明らかにした上で、郵便局と郵貯資金の活用可能性を議論し、両者の組み合わせでのみ実現可能な"地域コミュニティ協働事業推進貯金"を提案した。
|