当該研究では、知識ベースの組織における人的資源の役割に関する研究を実施した。具体的には、以下の調査を実施し、分析を行った。 第1に、企業における知識創造活動の拠点となる研究開発組織における調査および分析である。企業における研究開発従事者は、専門家社会への準拠と所属企業に対する準拠という二重のロイヤリティの問題に直面している。一般に、この種のコンフリクトは生産性や創造性を阻害するものと考えられている。しかし、当該研究では、それぞれの準拠は異なる知識・技能の獲得に重要な価値観を提供することによって、研究開発従事者の業績に対して正の影響を与えることを示すことができた。したがって、これら2つの価値観を上手く統合することによって、イノベーションにつながる活動を促進することができる。 第2に、イノベーションを原動力とした技術主導型の企業における人的資源の調査・分析である。今日、成果主義の導入に伴い、公平な評価・報酬のあり方が理論的にも実務的にも模索されている。特に、技術主導型の企業の競争力の源泉となっている研究開発という極めて不確実性が高く、高度な専門性を必要とする領域では、公平な評価、公平な報酬を提供することは難しい。当該研究では、(1)組織的公正研究の枠組みを援用して、評価プロセスにおける公平性(手続き的公正)と、報酬の公平性(分配的公正)が、人的資源に与える影響、(2)どのような条件を整えれば、組織的公正を確保することができるのか、を定量的なデータをもとに示すことができた。なお、この調査におけるサンプルは、技術主導型企業の、技術職、営業職、事務職、製造職である。
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