当該研究は、知識を活用する組織において、人的資源がどのような役割を担っているのか、また、どのようなタイプの人的資源が活躍しているのかを、体系的な調査に基づいて明らかにすることを目的としている。当該研究では大量サンプルによる調査票を用いた調査を数回実施し、分析を進めることによって次に示すような知見を得ることができた。 それは、企業組織における知識創造の主役である研究開発従事者に関する知見である。研究開発従事者は、専門家社会か所属組織か、といういわゆる二重のロイヤリティの問題に直面している。専門家社会へのロイヤリティを示すコスモポリタン志向は、主として最新の知識や一般的な知識、仕事への取り組み方などに対して影響を与えている。一方、所属組織に対するロイヤリティを意味するローカル志向は、組織の意図を汲み取ったり、組織内部でのコミュニケーションを促進し、組織独自の資源を活用することに寄与している。 つまり、従来の研究開発従事者に関する研究では、ローカルかコスモポリタンかという二者択一的な視点から分析を進めることが多かったが、知識創造という観点からいえば、両者を統合する必要があることが示されたのである。この結論は、伝統的なプロフェッショナル研究とは、必ずしも一致しないものである。 このような相違は、分析の視点が異なることから生じている。伝統的なプロフェッショナル研究では、分析の視点を個人の満足や専門性(学会や特許)などにおいており、必ずしも経営活動を念頭においたものではなかった。当該研究では、経営学における知見を援用することによってより企業経営を意識した分析枠組みを構築することができたために、新たな発見をすることができたのである。
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