研究概要 |
本研究の目的は、製薬企業の研究開発における競争優位の源泉としての「組織能力」の実態とその蓄積プロセスを明らかにすることにある。昨年度までの調査で、日本の大手製薬企業の発展過程およびそこにおける研究開発活動への取り組みについてある程度明らかになった(詳細については桑嶋・小田切(2003)を参照)。本年度はさらに、個々の企業ベースで調査を行い、各企業が研究開発活動に着手したきっかけや、背景として持っていた技術・ノウハウ等についてより詳細に検討した。また、研究開発プロセスにおける組織能力に関しても、昨年に引き続き調査を行った。調査結果をふまえて、大手製薬企業の臨床開発管理手法について公表データをもとにして行った統計分析の結果を論文にまとめた(Kuwashima,2003)。 近年、製薬企業の戦略にとって重要な位置を占めているものにM&Aがある。欧米ではここ数年、大手企業同士のM&Aが盛んである。本年度は、こうしたM&A戦略の有効性についてもインタビューおよび文献調査を通して試論的に検討した。経済学系の実証研究のサーベイを通して、これまで数十年にわたって行われてきた分析の結果、研究開発の規模の経済効果については、存在するという結果と存在しないという結果とがあり、決着はついていないことがわかった。一方実務に目をむけると、日本の製薬企業は独自路線志向が強いといわれるが、近年は中外製薬のロシュ傘下入りや、山之内製薬と藤沢薬品の一般用医薬品事業の統合(本体同士も統合予定)などもみられる。日本の製薬企業の経営戦略において重要性を増してきたM&Aの有効性について、今後さらに検討する必要がある。
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