研究概要 |
日本の自動車産業に関する事例として、圧縮天然ガス(CNG)自動車の導入・普及へ向けた取り組みを分析した。現在ディーゼル自動車から排出される窒素酸化物や浮遊粒子状物質(PMs)に対処するためにCNG自動車の利用を推奨されているが、その普及はあまり進んでいない。その要因として、利用者はCNG車の種類が少なく値段が高いから買わない、製造会社は利用者が買わないから作らない、燃料インフラ供給者は利用者が少ないからガススタンドを設置しないという、コーディネーションの失敗がある。そうした状況を打開する方策として,政府が信頼性を持ったコーディネーターとして、自動車に関する各利害関係者の行動を連携することより、環境に配慮がなされていない社会的に低位な均衡状態から、環境保全を考慮した社会的に高位な均衡状態に移行する試みがされている。この結果,参加者からはある程度のコミットメントを得ることができたものの、全体の規模としてはディーゼル自動車に比べると格段に低い水準に留まっている。その理由として、CNG車の値段やスタンドの設置費用がまだ高いということが挙げられ、そのために導入のかなりの部分が補助金に依存している状況である。また、政府自身による公的輸送機関へのCNG車の導入が進んでいないことも、他の参加者がコミットメントする意欲を削いでいる。その他、規制の強化と同時に規制の緩和が重要である。東京では近くPMsの排出規制によって、大規模事業者は一定の割合でクリーン自動車を導入することが求められる一方、高圧ガスの安全やガス施設、消防、道路に関する規制が緩和され、CNG車の利用やガススタンドの設置が容易になり、結果としてコストを引き下げることに繋がっている。したがって、単純な規制の強化または緩和をするのではなく、利害関係者の行動のインセンティブを十分考慮した制度を設計することが重要である。
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