企業の情報開示がどのような場合/どのような企業に起きるのか、企業が情報を開示する促進要因と阻害要因は何なのか、コラボレーションや取引にはどのような情報の開示が必要なのか、情報開示と企業の利益が矛盾しないビジネスの構造とはどのようなものなのかという問題設定に対して、本年度は、企業の研究・開発活動によって生み出される技術情報の開示に焦点をあてて研究をおこなった。 本年度、主にフィールド・スタディをおこなった分野は、燃料電池業界である。燃料電池は非常に大きな潜在市場を持っているが、技術の進展と用途開発はいまだ不確実性が大きい。この不確実性に対して、自社で開発した技術を自社だけのものとせず、業界で共有することによって、市場の形成や技術の進化を促し、標準策定に有利になることなどを目指す企業が電機業界を中心に現れ始めている。特に、東芝は燃料電池に関する自社の技術情報をサプライヤーに無償公開し、競合他社への供給も認めるという戦略をとり、注目されている。一方、自動車業界を中心に、あくまで自社グループ内での開発にこだわる傾向がある。このような企業の戦略の違いはどこから生まれるのかを企業インタビューと資料収集により探索的に研究した。企業が利益を得るためにはどのような場合に技術情報をオープン化し、どのような場合にクローズにした方が望ましいのかは、学術的にも、また広い分野に渡る実務の世界においても重要な課題である。
|