研究概要 |
本年度(平成14年度)前半は,主として,企業のエクイティ・ストラテジーに関する文献研究,株価と企業業績の長期パフォーマンスの実証方法に関する文献研究,ならびに行動ファイナンス論に関する文献研究を行った.本年度後半は,文献研究をまとめ,理論的な研究を開始した。年間を通じて,多くの方々から指導・助言を頂戴し意見交換も行った。 文献研究からは,アメリカの株式市場において,企業の代表的なエクイティ・ストラテジーである公募増資や転換社債の発行と自社株買いが,長期的な株価に有意なインパクトを与えることが確認できた.公募増資や転換社債の発行がアナウンスされた後3年から5年の長期にかけて株価は下落し続け,逆に自社株買いがアナウンスされた後3年から5年にかけて株価は上昇し続ける.株価の長期パフォーマンス測定については,従来短期パフォーマンスの測定で用いられてきた方法ではいくつかの問題点(とくに分布の歪み)があるため,ブートストラップ法を用いる.文献研究を通じて,これらの点が明らかになった. 理論的な研究は開始したばかりであるが,行動ファイナンスの考え方に立脚し,非効率なマーケットに直面する企業のエクイティ・ストラテジーについて分析を行った.非効率的なマーケットでは,企業の株価が過小評価,あるいは過大評価されている可能性がある.長期的な株価を最大化するため企業は,株価が過大評価されている時期に公募増資を行い,過小評価されている時期に自社株を買うインセンティブをもつ.企業がタイミングよくこれらのストラテジーを実行する結果,文献研究で確認した株価の長期的動向を説明できることが示せた.また,企業のエクイティ・ストラテジーとして興味深い転換社債と債務の株式化について,その経済合理性と株価に与えるインパクトをモデル分析した.これらの研究成果は,後述する雑誌論に掲載された.
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