中国のWTO加盟と市場拡大が顕著となる中、昨年度に中国進出日系企業のこれまでの取り組み、現状、今後の課題を調査したが、今年はその調査結果をまとめて論文・本として公表を行った。著書は『現地化する中国進出日本企業』と題し、中国市場に参入した後に、市場に密着した事業活動を展開するために、いかに経営現地化が重要かということを、生産技術、マーケティング、人事労務管理、調達管理などの諸側面から分析した。また地域統括会社の役割・機能にも触れ、今後現地の市場が拡大してゆくなかで、これまで複数の合弁事業を展開していた企業は、統括会社を中心に再編が必要になること、統括会社は法務・金融・人事・戦略企画など、今後の中国経営において重要な役割を果たしうることを述べた。 このようなアジア研究を続ける傍ら、本年は国内においても調査を継続し、二つの著書の出版に関与した。ひとつが『産業集積の新たな胎動』であり、企業活動のグローバル化によって地域の産業集積がいかなる影響を受けているのか、空洞化を克服するために産業集積内部でいかに中小企業間の連携が行われ、経営革新が達成されているのかということを精緻に分析したものである。もうひとつが『対日直接投資と日本経済』であり、対外直接投資と並ぶグローバル化の推進要因である対日直接投資が、いかに日本の企業改革や経済構造改革に貢献しうるかという視点から実証研究を展開したものである。 これら二つの著書はいずれも企業活動のグローバル化が日本国内の産業にいかなる影響を与えているのかという視点で分析を深めたものである。これらはともに産業空洞化等のグローバル化による負の側面のみを捉えるのでなく、むしろグローバル化を梃子にして、日本の産業社会がどのような将来像を描けるのかということを考察したものである。
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