研究概要 |
本年度の研究目的は、二点にまとめることができる。まず第一に、これまですでに検討してきたイギリス産業の技術変容を経営システムとの関連から分析する課題に資するとおもわれる新たな理論枠組みの探索であり、第二点として、衰退産業の脱成熟はいかに可能かという課題について、比較分析のため、日本の比較ケーススタディーとなりうる産業と具体的な企業を探索すること、そのうえで綿密な史的ケーススタディーを試みることにあった。 まず前者については、熟練をめぐる社会科学的な議論を幅広くサーベイしつつ、新たに認知科学論のなかからあらわれた、状況的認知論を具体的に熟練分析に応用する見地を検討し、その成果を論文としてまとめた。 また、継続中のイギリス、バーミンガムの機械工業集積の調査報告を学会論文としてまとめ、イギリス、オクスフォードブルックス大学欧日研究センターが主催する国際カンファレンス(3.Intenational Conference on a Comparative Study of Associations and Associations in Britainにて"American Technology and the Victorian Entrepreneurs' Strategy : The Case of Birmingham Small Arms Co., Ltd.1861-1910", Oxford Brookes University, 1st September, 2003)にて報告した。 後者については、昨年に引き続き、静岡県に所在するローカル中小私鉄である大井川鉄道株式会社に着目し、それが1970年代前後から、経営革新をすることによって業績を回復するプロセスの歴史的分析を深めることであった。そこでのキーとなるのは、「ヘリテージ(heritage)」の「観光(tourism)」資源化という考え方である。ここでは、「ヘリテージ」の観光化というかたちでの「産業化」という過程の分析が必要となるわけであるが、このヘリテージ観光研究という領域は、まだ緒についたばかりの新しい分野であり、分析フレームワークがまだ未発達である。そのため、今回は、環境経済学において環境という公共財の価値をいかに評価するかという分析手法を幅広くサーベイし、それをヘリテージの価値化による産業化の分析に応用することを試みた。またそれに加え、あらたに大井川鉄道の担当者からの綿密なヒアリング・データをもとに新たに学会報告論文を仕上げ、企業家研究フォーラム全国大会「中小ローカル私鉄の経営再建と起業家活動(株)大井川鉄道1969-2003年-『持続可能な開発』をめぐるジレンマ-、グランキューブ大阪、2003年6月29日)において報告した。
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