研究概要 |
今年度の研究実績は以下の,3つである. 第1に,昨年度の厚生年金基金および企業へのヒアリング調査を経て,年金会計基準が企業財務にどのような影響を与えるのかを調査するために案証研究を実施した。その成果は,Hitotsubashi Journal of Commerce and Management, Vol.38 No.1,October 2003に,"Incremental versus Relative Information Content of Pension Liability,".という論文として公表した。年金資産,年金費用,年金負債はすべて企業価値に影響を及ぼしていることが析出された.また年金負債に関して言えば,ABOよりもPBOの方が投資家の意思決定に有用であるとの結論を得ている. 第2に,年金関連の財務データベースの作成をあげることが出来る.上記の実証研究は,小サンプルのものであるが,2001年3月期からは全ての上場企業について,年金負債,年金資産,年金費用などの財務データを入手することが可能となっている.今年度は,その大量のデータを入手するとともに,整理した.これは来年度の本格的な実証研究の基礎となるだろう. 第3に上記のデータベースを利用したパイロット・テストがあげられる.株式価値に年金関連データがいかなる影響を及ぼすのかについて,東京証券取引所に上場している企業を対象として,パイロット・テストを実施した.実証モデルについては、Ohlsonモデルをはじめとした「Value relevanceモデル」を検討した。暫定的な結果としては,年金関連データは企業価値に影響を与えている.特に有価証券等の余剰金融資産保有が少ない企業についてみると,年金負債が与えるネガティブな影響が大きいことが分かった. 来年度は、残余利益モデルなど,複数のモデルを取り上げて、最終的な実証段階へと移行していく予定であるが,今年度までの準備により,十分に最終的な目標に到達することができそうである.
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