本研究は、組織内の合理性を促進するための「Trust/Distrust」機能という新しい理論的フレームワークに基づき、マネジメント・コントロールが果たす機能を特に「Distrust」の観点から再検討することを目的としている。本年度の研究では、組織の「Trust/Distrust」関係に基づくマネジメント・コントロールの機能に関する理論仮説の構築を目指し、既存の理論研究のサーベイを主に行ってきた。 すなわち、従来のTrust/Distrust研究においては、一次元的かつ規範的な観点からTrustの重要性を強調するあまり、組織のコントロールシステムに対してはネガティブな評価しか下されていなかったといえる。しかしながら、近年の研究においては、TrustとDistrustの機能的等価性や共時共存関係、そのなかでのDistrnstの機能について考慮する必要が唱えられている。そこで、Distrustの側面からアプローチすることにより、組織においてマネジメント・コントロールは、組織成員間のDistrustを合理化することによってTrustを高め、組織の有効性に貢献しているという「Distrustの合理化」機能という側面を有しており、同機能が有効に働くための制度的仕組み(「Distrustの制度化」)としてマネジメント・コントロール・システムが位置づけられるという理論仮説を提示した。 次年度以降、この理論仮説に基づき、日本企業においてマネジメント・コントロールが、実際にどんな領域で、どんな情報を提供することによって「Distrustの合理化」機能を果たしているのか、そしてその機能を有効なものにするための制度的仕組みとしてマネジメント・コントロール・システムがいかに構築されているのかを明らかにしていく予定である。
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